ここ最近、体のしこりが気になって来院されたワンちゃんの中で、皮下脂肪にしこりのような炎症が見られるケースが多かったので、今回は「無菌性結節性皮下脂肪織炎」について知っておきたい基礎的な事項をまとめたいと思います。また、先日アップした「イボ・しこりを見つけたら早めの来院を」の記事もぜひ参考にしていただければ幸いです。
皮下脂肪織炎は、その名称のとおり、皮下脂肪組織の炎症性疾患の総称です。その原因として、感染(細菌やカビ)、外傷、異物、注射部位の炎症、昆虫咬傷(虫刺されなど)、腫瘍などが挙げられます。ただ、日常生活環境でこれらの原因に当てはまるケースは少なく(ワンちゃん同士のケンカも減りました)、最近多くみられるのは、このいずれにも当てはまらない「無菌性結節性皮下脂肪織炎」と呼ばれるものです。
無菌性結節性皮下脂肪織炎は、原因が不明で、たいていの場合、突発的に皮下に触れるしこりとして気づかれることが多いです。また、しこりの上の皮膚から膿が出ていることに気づく場合もあります。この膿は炎症の結果作られたもので、そこに細菌などは認められません。通常痛みを訴えることは少ないですが、膿が出ている場合は痛みを伴うことが多いです。
診断には原因(感染、外傷、注射歴など)の除外とその部位の針細胞診検査にて行います。針細胞診検査では、脂肪と炎症細胞が混ざった状態が認められます。通常皮下脂肪に針を通しても脂肪しか採られないため、顕微鏡をのぞいても油滴があるだけなのですが、脂肪織炎ですと、写真のように脂肪分(白く丸く抜けている部分)と細胞成分(青紫色の部分)が認められます。
治療は、外科切除もしくはステロイド剤をメインとする内科治療(消炎・免疫抑制療法)です。飼主さんの気付かないところでぶつけたり擦ったりと外傷が関連する場合もあるため、小さいものや状態によっては様子見とする場合もあります。多発する場合や再発する場合は、生涯にわたる内科治療が必要な場合もあります。
ステロイド治療と聞くと「怖い」というイメージが先行して、副作用を気にされることも多いと思います。もちろん副作用に気を付けることは必要ですが、治療の要になる重要な薬剤ですので、しっかりとコントロールしていければ長期的に上手く付き合っていくことができるはずです。
以前からミニチュア・ダックスフンドに好発すると言われており、私自身もその実感がありますが、最近はトイプードルやミニチュアシュナウザー、チワワといった人気の犬種にも多いと感じます。
おうちで「しこり」に気づいた際や、無菌性結節性皮下脂肪織炎の診断を受けた場合の参考になれば幸いです。