当院も開院から10年が過ぎ、いつも来て下さる飼主様自身がご結婚されたり、就職されたり、マイホームにお引越ししたり、生活環境が変化することで生じる相談を受けることが多くなりました。
その中でも、飼主様が妊娠したことを機に「トキソプラズマ症」について相談を受けることがありますので、今回は「飼主が妊娠した場合にどう飼い猫と関係を続けたらよいのか?」「飼い猫自身や飼い猫から人への感染を防ぐにはどうしたらよいか?」といった悩みに応えるべく、簡単にお伝えしたいと思います。
トキソプラズマは原虫と呼ばれる寄生虫の一種で、ほぼ全ての哺乳類・鳥類に感染します。その中でもトキソプラズマが生活環を回すことができる終宿主となり得るのは、ネコ科動物のみです。ですので、猫が人との関係性も含めて話に出てくる機会が多いと言えます。
終宿主である猫はトキソプラズマの好適宿主ですので、多くの場合、感染しても無症状です。一方、人は終宿主ではありませんので、トキソプラズマに感染すると感染部位によって様々な症状を引き起こします。特に妊娠中の女性がトキソプラズマに初感染した場合は、母体のみならず胎子に影響が出るため注意が必要です。これが、よく相談が出てくる出発点だと思われます。ただし、初感染ではない場合はその限りではありません。
トキソプラズマが猫や人に感染する経路は大きく分けて以下の2通りです
①オーシスト(卵)の直接摂取。猫は終宿主ですので、オーシストと呼ばれる感染性のある卵を糞便中に排泄します。これを他の動物が直接摂取することで感染します。
②シスト(潜伏感染虫)の摂取。猫以外の動物がトキソプラズマに感染するとその虫体はシストと呼ばれる形態で筋肉などに潜伏します。ですので、人がトキソプラズマに感染した動物の肉を加熱不十分で食べたり、猫が感染ネズミや感染鳥を食べたりすると感染します。
ここまでが概要です。それでは、どう対策すればいいのでしょうか。ポイントは感染源を断つことです。
猫の場合、オーシストや感染動物中のシストを食べないように、「室内飼育の徹底」と「生肉を与えないこと」「ネズミ等の小動物の室内への侵入を防ぐこと」の3点が重要です。
次に人の場合です。感染猫がオーシストを排泄した場合、オーシストが成熟して感染性を持つまでは24~72時間かかります。ですので、毎日トイレを清潔に保っていればオーシストからの感染の可能性はゼロに近いです。また、猫がオーシストを排泄するのは初感染時の1回のみです。仮に過去に感染した場合(抗体陽性猫)でも、人への感染源になるリスクはきわめて低いと言えます。このような観点から、飼い猫から人へ感染するリスクはかなり低く、上述した猫の予防対策と常識的な接し方をしていれば、まずもって今まで通りでよいと言っていいでしょう。
むしろ、飼い猫からの経路よりもその他の感染経路に注意する必要があります。一つ目は、畑やガーデニングといった屋外作業中です。長野市内は外で生活する猫も多く、感染野良猫の糞便によって畑や庭の土壌がオーシストで汚染されている可能性があります。屋外作業後は手洗いを徹底しましょう。2つ目は、猫同様に生肉食の禁止です。豚肉や鶏肉は完全に火を通して食べることが浸透していますが、牛肉や低温調理肉にもシスト残存のリスクがあります。特に胎子に影響の出る妊婦さんは、いずれの肉であっても十分に加熱して食べるとよいでしょう。特に肉を食べる際のリスクに関しては、国立健康危機管理機構の記事が詳しいですので、ぜひご覧ください。
「妊娠したので、飼い猫のトキソプラズマ検査をお願いします。」といった依頼を受けることがありますが、その際は各検査センターが提供してくださる、血液中のトキソプラズマ抗体検査や糞便中のトキソプラズマ抗原検査を利用しています。
「簡単に」とは言ったものの、ここまで長文をお読みいただきありがとうございます。飼主様と飼い猫との日々の生活の参考になれば幸いです。ご不明な点がございましたら、来院していただき、気軽にご相談ください。



