前編では、猫のリンパ腫治療に使われる薬剤までの話をさせていただきましたが、後編ではもう少し話を進めたいと思います。引き続きつらつらと書いていますので、お付き合いいただけると幸いです。
猫のリンパ腫治療は、多剤併用の抗がん剤治療が基本です。その中でも、CHOPプロトコールがよく使われます。多剤併用療法では、各抗がん剤(シクロフォスファミド、ビンクリスチン、ドキソルビシン)を毎週あるいは2週間あけてグルグルと投与していきます。プレドニゾロンは他の薬剤と併用して、最初の1ヶ月ほど使います。このプロトコールでは、ドキソルビシンが一番強力かつ要ですので、ドキソルビシン投与後は2週間程度の間をあけます。寛解状態(見た目には治っているように見える状態)が維持できていれば、6ヶ月程度でプロトコールを終了します。
次にCOPプロトコールもよく使われます。これは、CHOPプロトコールからドキソルビシンの投与を除いたものです。ドキソルビシンが除かれる分、プロトコール自体の強度は下がると考えられますが、動物の負担も軽減される印象があります。治療費用もその分安くなります。ただ、最も強力な薬剤を使わないため、プロトコールの終了時期が決まっていませんので、そこは1年を目安に考えることが多いです。
色々なプロトコールがありますが、最後にご紹介するのは抗がん剤の単剤プロトコールです。これは、一つの抗がん剤を使用するプロトコールです。代表的な薬剤はドキソルビシンで、3週間毎にその投与を繰り返します。プレドニゾロンは状態の維持のために補助的に続けることも多いです。近年では、シクロフォスファミドを使用した3週間毎の単剤プロトコールも注目されています。
さて、ここからが獣医師によって考えや手法が異なる点ですので、もう少しお付き合いください。
プロトコールの選択に関しては、CHOPプロトコールが基本です。ただ、近年の報告では、猫ではCHOPとCOPに有意な差はないとされています。ドキソルビシンは猫の性格によっては安全な点滴投与のために鎮静処置が必要になる場合があります。その際、お預かりや付き添いになるため、猫へのストレスなどを考慮して、当院ではドキソルビシンを除いたCOPプロトコールをおすすめすることが多いです。さらにそこから話を進めると、通院頻度や費用の面から抗がん剤の単剤プロトコールのうち、シクロフォスファミドの単剤プロトコールを選択されるケースも多くなりました。
前編でお伝えした通り、近年このシクロフォスファミドの使用方法が劇的に変わりました。今までの薬用量の1.5倍以上を使用するというものです。今までの常識を逸した使用方法のため、実施する側の技術的、心理的な負担は大きくなります。ですが、それよりもシクロフォスファミドを上手く使うことによって、動物と飼主様に優しい治療が可能なのではないかと考えるようになりました。猫は通院が苦手な子が多く、また多頭飼育されている家庭も多いため、通院頻度をなるべく下げ、費用もなるべく抑えた方が飼主様が治療を前向きに捉えられると感じるからです。かと言って、原則的には多剤併用の方が治療反応がいいとされるため、COPプロトコールとシクロフォスファミド単剤プロトコールの両方をご提案することになりますが、相談の上決めていきます。
リンパ腫は根治を目指すのではなく、寛解(見た目に症状や病変が無い状態)を目指す病気ですので、長く付き合う必要があります。猫は病気であることやなぜ治療を受けているのか正確に把握しているわけではありません。また、猫は家族の顔色をよく見ています。そうなると、個人的には、家族がなるべくいつもの調子でいられる時間を確保し、安全基地である家で猫が長い時間安心して過ごせるプロトコールを選択することが治療の質よりも優先されるのではないかと考えています。
その動物と家族にとって最善の治療を見つけていく、そのために最近治療方法の選択肢が増えたリンパ腫を例につらつらと書かせていただきました。当院の考え方のひとつの参考となれば幸いです。



