日々の診療現場では、犬や猫の振戦(震え)に遭遇することが多々あります。
犬や猫における振戦を引き起こす原因としては、特発性(原因不明)、脳腫瘍や脳炎などの脳神経疾患、代謝性疾患、内分泌疾患、中毒や薬剤性、心因性、外傷性などがあり、非常に多岐にわたります。
診療においては、そんな多岐にわたる振戦の原因を探るべく、丁寧に経過やお家での様子を伺い、視診、触診などを通じて病変部を予想し、各種検査を行います。
今回、そういった過程を経たうえで、特発性振戦症候群と診断し治療した症例に出会いましたので、皆様に知っていただきたく以下にその概要を紹介したいと思います。
症例は、3歳のイタリアングレーハウンドの女の子です。頭部を主体とする全身の震えを主訴に来院されました。他院にて診察を受け、その経過観察中でした。他院での治療経過や、院内で認められた企図振戦(何かしようとすると震えが強くなる神経症状)、威嚇瞬目反応の低下(視覚の低下)から、脳神経の異常が疑われたためMRI検査を受けることになりました。「後医は名医」という格言があるように他院での経過観察があったことで、スムーズな検査計画を立てることができました。
さて、MRIと同時に行ったCTスキャン、脳脊髄液検査にて、異常は全く認められませんでした。では、何なのか!?目立った症状があるにもかかわらず、こうして目立った異常がないことが、特発性振戦症候群の特徴とされていますので、診断は「特発性振戦症候群」です。
この病気は、神経伝達物質あるいはその受け皿を標的とする免疫介在性疾患であると考えられているため、治療には免疫の暴走を抑えるためにステロイド薬を使用します。
特発性振戦症候群は、診察室では極めて劇的な症状を目にする一方、多くの場合で治療への反応が良く、その後の生活や生命に関わる予後は良好であることが知られています。
今回の症例も治療への反応が良好であることを期待します。
今回、MRI検査を行うまでは正直なところ他の病気を疑っていました。というのも、この病気は、以前は白色の毛色の小型犬種(マルチーズやウェスティ)に多く認められ、白犬の振るえ症候群(white shaker’s syndrome)と呼ばれていたからです。
今回の症例の毛色は、どちらかと言うと反対の黒色。もちろん今はあらゆる毛色と犬種に発生することが知られていますが、やっぱり検査しないと分からないし気づけないものですね。これからも日々精進せねばと改めて思いました。
色々な気付きを与えてくれた症例と愛する家族のためにご尽力いただいた飼主様に感謝し、それを共有すべく記事を書かせていただきました。皆さまの参考になれば幸いです。