みなさん肥満細胞腫という名称を聞いて(または見て)どんな印象をうけますか。
肥満って…うちの子太っているからなったのかしら!?とか、肥満に関わる脂肪組織がガンになるの!?とか、体型的に太っていることそのものを指して肥満と腫れるという語をつないだのかしら!?などなど…
そこで、今回は犬の肥満細胞腫の基本情報をお伝えしたいと思います。
肥満細胞は、免疫系の細胞の一種で、特にアレルギー反応や炎症反応に関与する重要な細胞です。肥満細胞は、ヒスタミンなどの化学物質を含む顆粒を持っており、アレルゲンやその他の刺激に反応してこれらの化学物質を放出します。
肥満細胞は英語でmast cellと言います。肥満細胞は当初、栄養を蓄えているように見えたため、「肥育する」や「栄養を与える」という意味を持つ「mast」が細胞の名前に使われました。確かに、化学物質を含む顆粒を蓄えたその様は肥えているよう見えます。もちろん、体型的に太っているから肥満細胞が多くなるわけではありません。
さて、肥満細胞腫に話を移したいと思います。
犬の肥満細胞腫は、肥満細胞が腫瘍化したもので主に皮膚に発生します。犬の皮膚腫瘍では最も発生頻度が高く、全皮膚腫瘍の16~21%を占めます。臨床的な挙動(大きくなるのがはやかったり、転移したりなど)はさまざまですが、どんなに小さくても基本的に全て悪性と考えます。
上述の通り、肥満細胞は化学物質を含むため、腫瘍の周りが腫れたり、血圧低下を引き起こしたり、胃十二指腸潰瘍をおこしたり、腫瘍に伴う様々な症状を発生させることがあります。
診断は、体表に形成された腫瘤に細い針を刺入して細胞を採取することで可能です。ただ、肥満細胞が持つ顆粒が分かりづらい場合は、診断が難しい場合があります。この場合は、腫瘤を摘出して検査に出すことで診断されます。
治療は、第一に外科手術です。外科手術でしっかり取り切ることが非常に重要なので、どんなに小さな腫瘤であっても相手が肥満細胞腫であれば、かなり広範囲に切除します。手術できっちりと取り切ることができれば、根治することが可能な場合が多いです。
また、最近は肥満細胞腫の発生した部位に近いリンパ節を同時に切除して検査に出すことが一般的となりました。その分切除する範囲が広くなるケースもあります。リンパ節を検査に出すことで、転移の有無を確認することができますので、その後の治療を決定する上で重要なプロセスとなっています。
もしも、すでに転移していたり、広範囲に切除したとしても取り切れなかった場合、化学療法(抗がん剤治療)や放射線治療を実施します。ちなみに放射線治療は、長野県内に実施できる施設がありませんので、都市圏にある2次診療施設で実施する必要があります。
以上、簡単に肥満細胞腫をお伝えしました。
肥満細胞腫の診断や治療、予後情報などは、アップデートが繰り返されており、こちらもふと気を抜くと置いてけぼりになることがあります。ただ、肥満細胞腫のような、日常診療で遭遇する機会の多い病気に関する知識は不足があってはならないと考えていますので、こちらも必死にくらいついています。
皮膚にできる腫物には、気づくことが多いと思います。少しでも異変を感じたら、気軽に相談に来ていただければと思います。
今回の記事が、皆さまの参考になれば幸いです。