犬や猫は、人との日常生活において、注意しておかないとしばしば食べ物ではないものを食べてしまいます。
今回は、異物の中でも状態をかなり悪化させて死亡する可能性の高い、ひも状異物の誤食に関して、知っておいてほしいことを書いていきたいと思います。
まず、ひも状異物とは何でしょうか。靴ひも、毛糸、裁縫用糸、タオルなどの布製品のほつれ、ストッキングや水切りネットなどのナイロン製品のほつれ、などなど、例を出せばいくらでも出てきます。すなわち、ひも状に伸びているものであれば何でもひも状異物に分類されます。
異物は、スーパーボールや子ども用の玩具、石、桃の種、など多くあれど、ひも状異物は特に厄介です。なぜでしょうか。それは、ひも状異物とそれを運ぼうとする腸の動きとの関連から説明できます。
ひも状異物は、その一端が胃から腸に流れると、腸がそれを送り出そうと蠕動運動を行うため、ひもを伝うようにして腸が少しずつ手繰り寄せられます。そうすると、よく「アコーディオン状」と比喩されますが、腸がひもを支点にしてかたまりとなります。そして、その大部分が血流不全を生じて壊死するとともにひもによって腸が裂けてしまいます。(下図参照)
ボールのような異物は、詰まってしまった場合にその部分のみにアプローチすることで解決することが多いのですが、ひも状異物の場合は、こうした理由で腸全体あるいは胃も含む胃腸全体にアプローチする必要があり、非常に厄介なのです。
ちなみに、短いひもをそれ単体で食べてしまった場合は、そのままするりと便とともに出てくることがありますが、ひも状異物を食べてしまう動物は、たいていの場合他にも食べていますので、それとひもが絡むことで事態がさらに深刻になってしまいます。
治療は手術を実施して異物を除去することです。ただ、手術前の段階で状態が深刻な場合が多く、手術中に亡くなることも多いです。たとえ手術が無事終わったとしても、手術部位の治癒が遅く再手術が必要であったり、腸の多くの部分を切除するために術後の合併症に悩まされたり、とネガティブなことが多いです。
深刻な状況ばかりを記述してしまいましたが、もちろん、手術や術後生活を乗り越えて元気になるケースの方が多いです。今回の記事を通して、ひも状のものがこれだけ厄介であるということを認識していただき、動物たちと一緒に遊ぶ玩具であったり、生活環境の見直しにつながれば幸いです。