3月末に自治体から送られてくるハガキを持って、動物病院や各自治体が実施する集合注射にて接種がワンちゃんに義務付けられている「狂犬病予防接種」
他の予防(フィラリア、ノミやマダニといった寄生虫に対する予防)とともに狂犬病予防接種も終盤にさしかかってきましたので、動物病院ももう少しすると落ち着いてくる頃です。
そこで、改めて狂犬病予防接種に関する理解を深めていただきたく、以下に概要を記載したいと思います。
この記事が狂犬病予防接種の重要性を再確認するきっかけになれば幸いです。
狂犬病は、狂犬病ウイルスによって引き起こされ、全ての哺乳動物がかかる「人と動物の共通感染症」です。発病した場合には有効な治療がなく、悲惨な神経症状を示してほぼ100%死亡します。最も致死率の高い病気としてギネス記録にも登録されているほどです。
狂犬病の流行パターンには、森林型流行と都市型流行があります。森林型流行は、主に欧米などの森林でみられ、主に感染動物は野生動物で、ヒトへの感染例は多くありません。
一方都市型流行は、アジアやアフリカなどの都市部にみられ、主に犬が感染動物で、ヒトへの感染例が多く発生します。都市型では、ヒトへの感染源の99%が犬であるといわれているため、犬の狂犬病対策が最も重要となります。
日本でもかつては狂犬病の都市型流行がみられていましたが、1950年に施行された「狂犬病予防法」によって徹底的な狂犬病対策がとられ、1957年以降は持ち込み感染例を除いて国内での狂犬病の発生はありません。
しかしながら、日本のような狂犬病の発生がない狂犬病清浄地域はオーストラリア、ニュージーランド、アイスランド、アイルランドなど、全世界にごくわずかしかありません。年間の死亡者は数万人(2017年で5万9千人)で、日本から近いアジアでの発生が多く認められます。狂犬病は、世界ではまだまだ一般的かつ高致死率の感染症なのです。
狂犬病対策の肝は、ヒトへの感染源となる犬への狂犬病予防接種です。長野県の狂犬病予防接種率は高いのですが、全国の接種率は直近で約70%と言われています。WHOのガイドラインにおいて、感染症の流行を防止するために常時確保しなければならない免疫水準は70%以上とされていますので、日本の今の犬の狂犬病予防接種率は、まさに「ギリギリ」なのです。
接種率がこのまま下がってくると、まだまだ海外では一般的な狂犬病が日本国内に侵入した場合に流行を防ぐことができません。それは、近い将来日本でもヒトも犬も狂犬病の脅威を目の当たりにすることになる、と言えるかもしれません。
今年の2月に群馬県伊勢崎市内で、小学生など男女12人が四国犬に嚙まれて負傷した事件がありました。この犬の飼主は、飼養していた7頭の犬に狂犬病予防接種を受けさせていなかったことが判明し、問題になりました。このとき、SNSでは、「日本には狂犬病が存在しないから狂犬病予防接種は必要ないのではないか」といった投稿もあったようですが、日本は過去に徹底的な対策をし、「今でも法律でルール化した狂犬病予防接種制度があるからこそ、狂犬病の発生がない」のです。
もちろん接種は義務ですが、病気の治療中で接種が適当ではない場合もありますので、不安などあれば当院を含む動物病院で相談することもできます。
「かわいいワンちゃんですね、ちょっと触ってもいいですか?」「ええ、もちろんいいですよ♪」
ふとした日常の風景だと思います。ただこれは、狂犬病清浄国である日本だからこその風景かもしれません。こうした日常を楽しむためにも、犬の飼主である私たちが狂犬病予防接種について理解しておく必要があると思います。