こんにちは、獣医師の出岡です。
わんちゃん、ねこちゃんの健康バロメータとして、元気食欲に加えて飲水量や尿量のモニタリングも重要です。飲水量や尿量の増加(=多飲多尿)の背景には、糖尿病、慢性腎臓病、甲状腺や副腎等ホルモン性の疾患など、さまざまな病気が隠れている可能性があります。そこで今回は、多飲多尿を示す代表的な病気についてお伝えし、病気の早期発見につなげていただければと思います。
多飲多尿とは?
一般的な飲水量は犬では体重当たり50ml前後、猫では体重当たり40ml前後です。それを大きく上回る飲水量の場合、多飲と考えます。尿量は体の水和状態により変動がありますが、以前に比べて量が増えたかどうかを重視します。普段から飲水量・尿量をざっくりでいいので把握しておくことで、変化に気付くことができます。
〇糖尿病
糖尿病とは、膵臓から分泌されるホルモン“インスリン”の分泌が相対的に少ない、もしくはインスリンが効きにくい体の状態になっているために血糖値が高くなりすぎてしまった状態です。初期症状としては多飲多尿のほか、多食、体重減少が見られることが多いです。糖尿病が進行し体内の栄養状態が狂うと、糖尿病性ケトアシドーシスという状態に進行し、元気食欲の低下、嘔吐下痢、脱水、重度であれば昏睡状態になるなど重篤な症状を引き起こします。糖尿病の治療は1日2回のインスリン皮下注射です。糖尿病は生涯を通じてインスリン皮下注射が必要となることが多いです。
〇慢性腎臓病(詳しくはこちら)
慢性腎臓病は腎臓が長い期間をかけて徐々に機能を失う病気です。腎臓の機能が低下すると薄いおしっこが出てしまうため、尿量が増え、その分喉が渇くため飲水量も増えます。多飲多尿のほか、元気食欲の低下、体重減少、嘔吐下痢などの症状が見られます。治療法は腎臓病療法食への切替、定期的な皮下補液、高血圧の場合は血圧を下げる薬の服用などです。慢性腎臓病は初期のうちは症状が分かりづらいため、定期健診が重要です。
〇クッシング症候群
クッシング症候群とは、副腎から皮質ホルモンの分泌が多すぎてしまう病気で、副腎もしくは下垂体に原因がある場合とステロイドホルモンの内服による医原性のものがあります。症状は多飲多尿のほか、腹部膨満、体幹部の脱毛など特徴的です。原因により治療はさまざまで、内科治療や外科手術があります。糖尿病を併発することもあります。
〇甲状腺機能低下症(詳しくはこちら)
甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンが不足する病気で、中高齢の犬に多く見られます。症状はさまざまで、元気食欲の低下、体重増加、嘔吐下痢、繰り返す皮膚病、多飲多尿などが認められます。治療法は甲状腺ホルモン製剤の内服です。一生涯投薬が必要になる場合がほとんどです。
〇甲状腺機能亢進症(詳しくはこちら)
甲状腺機能亢進症は甲状腺ホルモンの分泌が多すぎてしまう病気で、中高齢の猫に多くみられます。症状はさまざまで、元気食欲の亢進、体重減少、嘔吐下痢、多飲多尿などが認められます。治療法は甲状腺ホルモンの分泌を抑える薬の内服により、多くの場合一生涯投薬が必要になります。
〇子宮蓄膿症
未避妊の雌犬に多い病気で、卵巣からの性ホルモンによる影響を受け、子宮内に膿がたまってしまうと子宮蓄膿症になります。膿が陰部から排出されるタイプと排出されないタイプがあり、後者の方が重い症状を示すことが多いです。症状は元気食欲の低下、多飲多尿、嘔吐下痢、高熱などさまざまです。治療法は内科療法と外科療法がありますが、根本治療は外科手術により子宮・卵巣を摘出することです。若いうちに避妊手術をしておくことが子宮蓄膿症の予防につながります。
ほかにも、低カルシウム血症、高カルシウム血症、尿崩症など多飲多尿の症状を示す病気は多くあります。子宮蓄膿症のように1~数日で急に具合が悪くなる病気もあれば、慢性腎臓病のように数年間かけて進行する病気もあります。今までと違う様子が見られたら、早めに動物病院へご相談ください。