どうぶつ医療コラム

犬の脳腫瘍の治療について

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脳腫瘍は頭蓋骨内に発生した腫瘍の総称で、原発性と二次性に分けられます。原発性脳腫瘍は、頭蓋骨内にある組織から発生した腫瘍のことです。また二次性脳腫瘍は、他の部位の腫瘍の転移や、頭蓋骨の近くに生じた腫瘍の進行により頭蓋内に作られた腫瘍のことです。

私たちは、てんかん発作や異常行動、四肢の異常(ナックリングや間欠的な跛行など)などの様々な神経症状を訴えて来院された場合、詳しい身体検査や神経学的検査を経て、その異常がどこにあるのかを考えます。そして、脳内の病変を疑ってMRI検査に進み、脳腫瘍が見つかることがほとんどです。最近、脳内の病変(脳腫瘍を含む)を疑いMRI検査に進み、脳腫瘍と診断したワンちゃんの画像を、飼主様の許可を得て共有させていただきます。

T1 COR (C)

この症例は、左後肢の姿勢反応の低下と発作の原因精査のためにMRIを撮影し、矢印で示す腫瘍が見つかりました。

T2 AX

この症例は、震えと右半身の姿勢反応の低下の原因精査のためにMRIを撮影し、矢印で示す腫瘍が見つかりました。

ここまでは、普段診療を進めていく上で、一般的な道筋になると思いますが、今回の記事で取り上げたいのは、その後の治療に関することです。治療に関しては、様々な選択肢がある中で、長野という地理的な問題もあり、悩むことが多いと思いますし、実際にその場面でかなり悩みます。ですので、以下に羅列する治療方法をひとつの情報として知っていただき、いざという時の参考にしていただければ幸いです。

一般的に脳腫瘍の治療法には、外科手術、放射線治療、化学療法が挙げられます。その他に、直接的ではありませんが、症状や病変に対する対症療法(緩和療法)があります。対症療法は、単独で実施される場合もあれば、他の三大治療(外科手術、放射線治療、化学療法)と並行して実施される場合もあります。

外科手術は、腫瘍の完全切除や減容積を目的に行われます。通常は、頭蓋骨を開けてアプローチし、腫瘍を摘出あるいは減容積します。その後、チタン製のメッシュなどを用いて閉じます。最も直接的な治療法のため、摘出することで症状が著しく改善することが期待されます。ただ、実施できる施設が限られていることと、相手が脳組織の一部であるために完全切除が難しく根治に結び付くかが何とも言えないことから、現実的に実施が難しい場合が多いです。

放射線治療は、放射線治療装置を持つ診療施設にて実施されます。長野からですと、埼玉や東京、名古屋といった都市圏の施設をご紹介させていただくことがほとんどだと思います。新潟や岐阜にも実施施設があります。後は、どこに向かうかを相談します。放射線治療がよく効くタイプの脳腫瘍の場合は、症状の改善具合が良好です。ただし、放射線治療は一回で完結することはなく、複数回に分けて実施することになるため、その度に移動するのか、長期の入院とするのか、費用も含めて検討することになります。また、一回の放射線照射のたびに全身麻酔をかけますので、そのリスクも合わせて考える必要があります。さらには、放射線による脳障害もリスクの一つなるため、実施希望の場合は、各施設とさらに相談を重ねる必要があります。

化学療法は、いわゆる「抗がん剤治療」と考えていただいて差し支えありません。腫瘍細胞に対して薬が力を発揮すれば、効果を実感できます。特に髄膜腫という脳腫瘍は、比較的特徴的な画像の見え方があり、抗がん剤治療を実施することをお勧めすることが多いです。しかし、大部分の脳腫瘍は外科手術でアプローチする以外に確定の方法がなく、あくまでMRI画像等を診て推察することが多いため、効果に関しては不明な点が多いのも事実です。

最後に、対症療法は、脳腫瘍によって二次的に起こる障害を抑え、生活の質(QOL)の維持を目的とした腫瘍内科療法です。具体的には、ステロイド剤、抗てんかん薬、脳圧降下剤がメインです。その他にも神経痛に対する鎮痛補助薬など、使用する薬は症状により様々です。

長野では、なかなか外科手術や放射線治療を実施している施設に向かうのが難しく、かつ脳腫瘍症例のほとんどが高齢であることから、上記の治療法のうち、最後の対症療法をご希望されるケースが非常に多いです。個人的にも、対症療法によって良い時間が過ごせることが多いと感じるため、相談の上、おすすめすることが多いです。

脳腫瘍を患うと、悪いことばかりを考えてしまうと思います。なぜ?どうして?と考えることも当然です。ただ、生活環境や遺伝的な要因はほとんど証明されていませんので、腫瘍を抱えた小さな家族に対して、前向きに今後の治療方法を探っていくことが最良の選択と考えます。そのお手伝いがこの記事を通してできれば幸いです。

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