どうぶつ医療コラム

猫の歯肉口内炎の治療選択

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猫の歯肉口内炎は、私たちの現場でときおり遭遇する疾患で、しばしば難治性であり、痛みも強いために歯肉口内炎を持つ猫の生活の質(QOL)は大きく低下すると言われています。

100頭の猫のうち5頭程度が罹患すると言われ、口の痛みから口周りをかきむしったり、涎が常に出ていたり、出血したりと口周りに症状が集中します。痛みが重度になると食欲も低下し、体重も減少していきます。また、口の環境が悪化することで、その口でグルーミングした被毛が臭ったり、ガサガサしたりと外観も変わってきます。

病院に来院される際に、皆さんがよく口にするのは、「涎が増えてきて食べづらそうにしている」「食欲がなく、口が臭う」などです。そして、「おうちで口を見ようとしたが見させてくれない」という例が多いので、病院にいらっしゃいます(もちろん病院でも口を見させてくれない例も多いですが…)。では、口の中はどんな状態になっているのでしょうか?代表的な2例の写真を見てみましょう。

IMG_4017 口角(上下の唇が合わさる場所)が真っ赤に腫れています。この症例は喉も腫れあがっていました。

IMG_9463 別の例です。歯肉全体は腫れあがり、触れるだけで出血してしまいます。

猫の歯肉口内炎発症の直接的な要因はわかっていないのですが、猫カリシウイルス(猫3種ワクチンに含まれています)などのウイルスや各種口腔内細菌の関与、これら口腔内微生物への過剰な免疫反応などによる複合的な要因が指摘されています。ですので、口腔内微生物の絶対量を減らしたり、過剰な免疫を抑えたりして症状(炎症)を緩和する治療が現在の主流となっています。当院で行っている治療を中心に、下記に治療の概要を記載します。

□ 外科治療 (全臼歯抜歯・全顎抜歯)

全臼歯抜歯は前歯(切歯)と犬歯を残して抜歯します。全顎抜歯は前歯と犬歯も含む全ての歯を抜歯します。口腔内微生物の絶対量を減らし、口腔内の異物をなるべく除去することで、それらに対する免疫反応をも抑えられるのではないかという治療方法です。歯を根こそぎ抜いてしまうというと聞いただけでは乱暴な治療ですが、唯一完治を望める治療とされています。全臼歯抜歯の約60%、全顎抜歯の約80%程度が改善するというのが一般的な治療反応率です。もちろん内科治療を継続する必要がある場合も多いので、この反応率はあくまで参考値と捉えるべきでしょう。

当院では、年齢や性格、持病、歯肉の状態等を考慮して実施を検討しますが、手術を実施する側もされる側も大変なので、慎重に相談させていただいています。手術時の動物側の負担を考慮して、全臼歯抜歯をまず実施します。それでも改善に乏しい場合は、時間をおいて全顎抜歯を実施しています。

以下に当院で全臼歯抜歯を実施して改善した症例の顔写真をビフォーアフターを、飼い主様に了承を得て掲載します。口の中は飼い主様も見ることができない猫ちゃんのため、外貌だけの写真です。

IMG_1262 写真の通り多くの歯を抜きます。この子は前歯も抜きました。(処置後は犬歯だけが残りました)

20220612_122459 処置前(ビフォー)です。この距離と角度で写真を撮るのが限界だったとのことです。口の左側から血様の涎が認められます。

2PhotoRoom-20220704_082502 処置後(アフター)です。写真の撮り方もあるのですが、目の下の腫れがひきました。その他の症状も大きく改善しました。

 

この症例は、その後性格も少しずつ穏やかになってきたようです。やはり痛みを少しでも緩和することは大切であることを教えてくれます。写真を見ると同じ猫ちゃんとは思えないほどですが、実際に外科的な処置はそのような劇的変化を期待することもできると感じています。

□ 内科治療

猫の歯肉口内炎の治療は「口腔内微生物の絶対量を減らして、それに対する口腔内の炎症反応を緩和すること(過剰な免疫反応を抑えること)」が目的です。内科治療は基本的に外科治療の補助と考えます。ただ、動物の年齢や性格、持病など様々な理由から外科的な治療が難しい場合に、内科治療を選択することになります。

内科治療には、口腔内微生物の絶対量を減らす手段として抗菌薬、口腔内の炎症反応(過剰な免疫反応)を抑える手段としてステロイド薬、免疫抑制薬、インターフェロン薬が挙げられます。この中でも即効性があり、症状の改善が認められる組み合わせは抗菌薬とステロイド薬です。ただ、内科治療は継続する必要がありますので、副反応(抗菌薬に対する耐性菌の問題、ステロイド薬による肝障害や糖尿病など)を出さずに長く使い続けるには、飼い主様との対話はもちろんのこと、血液検査など各種モニタリングも定期的に行う必要があります。一方、免疫抑制薬やインターフェロン薬は副反応の比較的少ない治療方法ですので、長くお付き合いしていく際の治療としてご提案しています。

その他、レーザー治療やサプリメントなども挙げられますが、まだ一般的とは言えないと考えています。

以上、写真なども掲載して概要を記載しました。悩める猫ちゃんとそのご家族の参考になれば幸いです。治療に関する質問や詳細は、ご来院時にご相談下さい。

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